VOICE

  • 印刷のお話し

    活版欲。

    2023.12.21 デザイナー/ディレクター 
    藤野 啓

皆さんこんにちは。
私は浜松市在住のデザイナー、藤野と申します。
JAGDA静岡のVOICEページにおける初投稿ということで、このページを見てくれる人ってどんな方がいるのかなあと思いを馳せながら記事を考えております。

突然ですが、皆さんは活版印刷をご存知でしょうか?普段グラフィックに親しんでいる方からは、当たり前だらう、という声が聞こえてきますが、意外とご存知ない方も多いのかなと普段クライアントとお話ししていると感じたりします。
今日はどうしても活版印刷してみたい!という個人的な願望から始まった体験についてお話しできればと。

そもそも活版印刷の簡単な説明をすると、版にインクを塗って紙に転写するハンコやスタンプのような印刷方法のことです。精度の高い仕上がりというよりは、紙の凹みとインクの滲み具合にアナログさを愛でたい、歴史ある印刷方法。
活版に憧れを感じている理由として、私が2016年に新卒でデザイン事務所に入社した頃は、世の中的にwebサイトの案件が増え始めた時期で、これまで紙ものをメインにやってきたベテランよりも若いやつにどんどんwebを覚えされば良いのではという雰囲気が社内にあり、あまり紙媒体のデザインを(やりたいと思って入社したのに)深くまではできずにここまで来てしまったからだと思います。

独立してJAGDAの諸先輩方の紙を盛大に使ったワークス(というか紙に対する偏愛(笑))について聞いているうちに、紙に対する気持ちが今年は過去最高までに高まったのも大きな原因でした。

ではまず自分の名刺を活版印刷で制作してみよう!と思い立ち、浜松は南区卸本町にあるknot letter press printingさんにお伺いしました。
https://knot-lpp.studio.site/
ここはコピーライター兼活版印刷工(他にも沢山の顔があるらしい)の大杉さんが営む活版専門の印刷所。テキンという手動式の平圧印刷機を使い、主に名刺やハガキなどの小型の厚紙に印刷をしています。 テキンは大型印刷機とは違い、こじんまりとした可愛らしさがありつつも、近くで見ると鉄の無骨さも感じるなんとも味わい深い道具。重さは80キロあるんだとか。。

そしていざ、活版。と勇み立ち今回選んだ名刺の紙はドイツの製紙会社・グムンド社が2021年に発表したグムンドバイオサイクルというファインペーパーです。独特の色合いのこの紙は、グムンド社の敷地内にある牧草を配合して作られており、草の爽やかな香り特徴です。デザインはもちろん、なんかエコっぽくて良いですよね。バイオがサイクルしてるんですから。(?)

印刷の際に一つひとつ丁寧にテキンへとセットされる光景がなんだか崇高に感じました。デジタル印刷より大幅に手間がかかりますし、もっと便利に刷る方法が沢山ある中でこれを選ぶ「特別さ」は、活版が初めての時しか味わえない感覚かもしれません。

そして出来上がったのがこちら。

黄緑の地に対して緑色のインクを使って印刷してみました。実はより鮮やかな緑にしたかったので、蛍光の水色を使用しています。多分、緑で印刷すると紙の黄緑を拾って濃い緑に寄りすぎるのではと思い、大杉さんと相談して決定した色です。現場立ち合いならではのライブ感もあり、大満足◎

仕上がりの感想としては、出来上がりの存在感が他の名刺と違うなと感じました。 ロストテクノロジー(そこまでではない?)で人の想いや温もりを伝える、いいなあと思います。むか〜しから行われていた印刷技法。誰かにこれを伝えたい!っていう想いが、今よりもきっと強かった時代の発明ですよね。

今後はもっと紙についても勉強していきたいと思いました。SDGsという概念が先走る世の中で、紙に対するデザイナーの付き合い方ってどうするのがいいんでしょうか?これまでの紙の発明についてリスペクトしつつ、色々なデザイナーさんに聞いて、自分なりの答えを見つけてみたいです。まだまだ人生は長い!

最後に、12月初旬にクライアントであるドキュメンタリー映像作家の中島響さんと一緒に、彼の印刷を活版で行う立ち合いをした際の動画がありますのでご紹介します。 この回は写真をハーフトーンにして版をつくり、名刺の裏に1回押し。写真もできちゃうんですねー。
https://www.youtube.com/watch?v=bXWGV38PrYg

記事を書いた人

デザイナー/ディレクター 藤野 啓

web sitehttps://proud-design.jp/

1994年静岡市生まれ。
都内のデザイン事務所にて、新規プロジェクトのデザインやリブランディングを担当。
2021年に株式会社プラウドデザインを開業し浜松市で独立。